「かわいい」と建築
2019年日本感性工学会出版賞受賞
近年、「かわいい」という概念は多方面の人工物の開発の際にキーコンセプトとして用いられ、そのなかでは数多くの成功事例が出現している。それはなぜなのだろうか。本書は、「かわいい」が人々に与える影響やそれを活用した建築、今後の展望などについて全8章で解説し、我が国の建築に対して新たな視点や方向性を与える。
書籍データ
発行年月 | 2018年9月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 264ページ |
定価 | 2,970円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-71212-9 |
概要
本書は、8つの章から構成されている。第1章は、「かわいい」を取り巻く社会経済の変容、「かわいい」という言葉の歴史的変遷、「かわいい」に関する学術研究などについて紹介している。
第2章は、かわいいと感じる原因や心理的・生理的・行動的影響、かわいいものが及ぼす集団への影響や効果などについてかわいいWGが実施した調査結果を中心に紹介し、近年の発展が目覚ましい脳科学の知見を用いてその知見に考察を加えた。
第3章は、「かわいい」が人と建築との良好な関係を構築する特性に関して、事例調査の概要を報告している。人と建築との良好な関係については、「利用者に優しい」「利用者を集める」「都市を楽しく」「糖衣効果」の4つのサブテーマを設けた。
第4章は、ワークプレイスの事例と、かわいいWGが実施した調査結果、および疲労回復に対する知見をもとに対策の方向性を示した。
第5章は、高齢者施設の事例調査で得た「日頃まったく反応の無い高齢者が幼児に接すると生き生きとした表情を取り戻す」という現象を出発点として、高齢者施設での世代間交流に焦点を当てて問題点や可能性を述べた。なお、第3章から第5章に紹介した建築事例については、目的と手段のネットワーク図を作成している。
第6章では、その目的と手段のネットワーク図の分析によって、「幸福感」系の効果は主に平面計画、「好感」系の効果は主に視環境の設計解が関与していることを示した。そして、かわいいWGの活動で得られた知見をもとに行った実務者を交えたディスカッションの要旨を紹介している。
第7章は、建築分野で初めて「かわいい」に関する問題提起をされたプロジェクトプランナーの真壁智治氏、心理学の分野で精力的に研究活動をされている入戸野宏教授(大阪大学)、美術館で「かわいい」絵画の展覧会の企画を担当されてきた三戸信惠氏(山種美術館)、小児病院の調査研究と設計に取り組まれている柳澤要教授(千葉大学)からいただいたご寄稿を掲載している。
第8章では、建築環境における快適性概念の変遷と、「かわいい」概念の可能性に焦点を当て、今後の展望を述べている。
(「まえがき」より抜粋)
目次
第1章 「かわいい」とは?
1 社会経済の地殻変動
2 「かわいい」の日本語史
3 拡張する「かわいい」感覚
4 「かわいい」に関する学術研究
5 かわいい人工物に関する研究
第2章 かわいさのメカニズム
1 心理現象としての「かわいい」
2 「かわいさ」の行動的生理的影響
3 脳科学から見た「かわいい」
第3章 人と建築との良好な関係
1 利用者に優しい
2 利用者を集める
3 都市を楽しく
4 糖衣効果
第4章 精神的疲労の回復
1 働き続けたい職場
2 疲労と回復
3 伝統建築におけるくつろぎの空間づくり
第5章 自尊感情の回復
1 笑顔あふれる暮らし・生き生きと暮らす人々
2 自尊感情
第6章 実現手段と設計解
1 「幸福感」系・「好感」系効果の実現手段
2 フリーディスカッション「かわいいと建築」
第7章 寄稿編
1 感覚からの叛乱と建築の所在[真壁智治]
2 「かわいい」と心理学[入戸野宏]
3 日本美術にみる「かわいい」
―琳派の造形を手がかりに―[三戸伸惠]
4 小児医療環境のデザイン[柳澤要]
第8章 協調社会の建築像
1 「かわいい」と建築環境の快適性
2 「かわいい」のこれから