北極域の研究
―その現状と将来構想―
持続可能な北極域のあり方や急激な地球温暖化への対応が急務となる中、日本がこれからの10~20年で行うべき北極環境研究に関して、168名の編集委員・執筆者が、現状分析と将来構想を示す。自然科学、工学、人文科学、社会科学、分野横断課題(先住民、資源開発、生活環境・セキュリティ等)、研究基盤の整備の6章で構成。
書籍データ
発行年月 | 2024年3月 |
判型 | B5 |
ページ数 | 480ページ |
定価 | 4,950円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-56230-4 |
正誤表はこちら
概要
北極環境研究コンソーシアム(JCAR)は、2014年に『北極環境研究の長期構想』を発行し、2018年にはその増補改訂を行った。そして今回は、大改訂を行い『北極域の研究―その現状と将来構想―』を出版社から刊行することとなった。
今回の大改訂は、『北極環境研究の長期構想』公開後10年目の節目であること、国際北極科学委員会(IASC)によって開催される第4回北極研究計画国際会議(ICARP IV)が2025年に開催されることを契機として行ったものである。本書は、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II、2020-2024年度)の後継プロジェクトへの日本の北極コミュニティからのボトムアップ研究提案として対応するとともに、ICARP IVへの日本の長期研究戦略のインプットとして、日本がこれからの10年~20年で行うべき北極環境研究に関する現状分析および将来とるべき方針が示されている。
JCARは、2011年5月に発足し、2023年10月現在では登録会員が約530名に及ぶ。発足当初は自然科学の研究者を中心に活動を開始したが、社会から要請される課題の変化に伴い、現在は、工学、人文科学、社会科学などの会員が加わって活動を行っている。今回の改訂では、これらの会員分野が反映されるとともに、分野横断課題として先住民、資源開発、生活環境・セキュリティ等に関連した章が加わった。また、2026年には砕氷能力を備えた北極域研究船の就航が予定されており、その研究船利用も視野に入れた今後可能となる研究やその意義も提言されている。
持続可能な北極域のあり方や急激な地球温暖化への対応が急務となる中、コロナウイルスによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、それに伴う社会情勢の不安定化などの諸問題が発生し、北極域での現地調査・観測が中断するなど学問的な停滞も起こっている。このような中でも、北極域研究については国内研究活動の立案や国際的な協力要請などの機会も増加しており、日本の情勢や長期的な方針をまとめた『北極環境研究の長期構想』の大改訂は重要な意味を持つ。
北極域の自然や社会は急激に変化しており、それらへの対応には、分野を超えた学際的な研究や社会と連携した研究が求められている。JCARはそのような研究の方向性や様々な分野との連携の模索を可能とする場であり、それを具体化したものが今回の『北極域の研究―その現状と将来構想―』である。本書を通して、日本の北極域研究の現状や目指している将来構想について、研究者、専門家、省庁関係者のみならず、これから学びを深める学生や一般の方に興味を持ってもらえる機会となることを期待している。
(「巻頭言」より抜粋)
目次
巻頭言
序章
1 はじめに
2 本書で目指すこと
3 北極環境研究の歴史
4 本書の要約
第1章 自然科学
1-1 大気(対流圏・成層圏)
1-1-1 大気循環・力学
1-1-2 大気物理・雲
1-1-3 物質循環
1-2 ジオスペース・超高層・中層大気
1-2-1 ジオスペースからの超高層大気および中層・下層の大気への影響
1-2-2 超高層大気が中層・下層大気に与える影響
1-2-3 下層・中層大気変動が超高層大気に与える影響
1-2-4 超高層大気を通した極域から中低緯度へのエネルギー流入
1-2-5 太陽活動と北極超高層大気が社会活動に与える影響
1-3 海洋・海氷・海洋生物
1-3-1 海洋・海氷物理
1-3-2 物質循環
1-3-3 海洋生物/生態系
1-3-4 モデリング
1-4 陸域(永久凍土・陸上生物圏)
1-4-1 永久凍土
1-4-2 生物多様性
1-4-3 物質循環
1-5 雪氷
1-5-1 降積雪と気象
1-5-2 グリーンランド氷床と氷河・氷帽
1-5-3 雪氷を介した物質循環
1-5-4 海氷・河川氷・アイシング
1-6 気候予測
1-6-1 海氷予測
1-6-2 季節~数年気候予測
1-6-3 長期気候予測(温暖化予測)
1-7 遠隔影響
1-7-1 海氷減少と中緯度の寒冷化
1-7-2 日本付近の異常気象
1-7-3 熱帯から北極域への影響
1-7-4 大西洋数十年規模変動の北極温暖化への寄与
1-7-5 海洋熱輸送と北極海氷変動および北極域気候変動モード
1-8 古気候・古環境
1-8-1 古気候データ(プロキシ)
1-8-2 古気候モデリング
1-9 固体地球
1-9-1 北極域の地質
1-9-2 北極海テクトニクスと火成活動
1-9-3 北極域における氷床-地殻相互作用
第2章 工学
2-1 陸の工学
2-1-1 北極域の建築物・都市のゼロエネルギー、ゼロエミッション
2-1-2 北極域のマテリアル
2-1-3 北極域の廃棄物
2-1-4 北極域の地盤工学
2-1-5 北極域の再生可能エネルギー
2-1-6 北極域の防災
2-2 海の工学
2-2-1 北極航路
2-2-2 海洋資源利用
2-2-3 海岸・沿岸の諸問題
2-2-4 海中ロボット
2-3 空の工学
2-3-1 対流圏の工学
2-3-2 宇宙の工学
2-4 情報工学
2-4-1 リモートアクセス
2-4-2 北極域光ケーブル
2-4-3 データセンター
第3章 人文科学
3-1 北極の人類史
3-1-1 北極圏への人類の進出と適応
3-1-2 古代ゲノムと先住民社会の形成
3-2 民族文化とアイデンティティ
3-2-1 北アメリカの北極地域とグリーンランド
3-2-2 ユーラシアの北極地域
3-3 先住民言語
3-3-1 北東シベリア・北米の言語
3-3-2 南シベリア・中央アジア・モンゴルの言語
3-3-3 西シベリア・北欧の言語
第4章 社会科学
4-1 政治
4-1-1 国際関係
4-1-2 民際関係
4-1-3 域際関係
4-2 経済
4-2-1 マクロ経済と主要産業
4-2-2 家計・暮らし・経済格差
4-2-3 環境変動と経済
4-3 国際法
4-3-1 環境の保護および生物多様性の保全
4-3-2 海洋
4-3-3 資源開発
4-3-4 人権と先住民族の権利
第5章 分野横断課題
5-1 先住民族の権利と運動
5-1-1 国連と先住民族運動
5-1-2 気候変動と先住民族組織
5-1-3 アイヌ
5-2 資源開発と災害適応
5-2-1 永久凍土帯の都市・集落の構造物に対する地盤支持力の変化
5-2-2 沿岸侵食と洪水の影響
5-2-3 河川・湖沼の氷上の利用とその持続可能性
5-2-4 経済開発にともなう環境汚染と災害のリスク
5-3 生活環境・セキュリティ―生活者にとっての北極環境変化
5-3-1 食糧
5-3-2 水資源・水利用
5-3-3 汚染物質と健康への影響
5-4 まとめ・分析
第6章 研究基盤の整備
6-1 砕氷船観測
6-2 衛星観測
6-3 航空機
6-4 海外の観測・研究拠点
6-5 人材育成
6-6 研究推進体制
6-7 分野別研究機器など
6-7-1 大気
6-7-2 中層・超高層大気
6-7-3 雪氷
6-7-4 陸域生態系・物質循環
6-7-5 海洋
6-7-6 数値モデリング
引用文献
北極研究推進の国際動向
略語一覧
執筆者など
あとがき