心とからだのセンシング
―健康・医療・福祉のためのテクノロジー―
電気学会2010年度優秀技術活動賞(技術報告賞)受賞
人間に関するセンシング技術について、その基礎から応用の現状、今後の展望まで、「健康」「医療」「福祉」の分野に分け、「こころ」と「からだ」の側面からまとめた。幅広い領域を網羅する21人の専門家が、安全・安心で快適な社会生活を支える最先端のセンサテクノロジーを、図や写真を多用して、わかりやすく解説する。
書籍データ
発行年月 | 2009年7月 |
判型 | A5 |
ページ数 | 192ページ |
定価 | 2,640円(税込) |
ISBNコード | 978-4-303-71033-0 |
概要
社会システムの基本単位は人間の活動(生活)である。安全、安心な社会生活をおくることは誰もが望んでいることである。まず、正常に活動できる健康な心身が必要である。単に肉体面における病気やけがなどから身を守るのではなく、精神面の健康管理も重要である。精神面においては、生活・仕事面でのストレスに留まらず、社会環境、とくに最近問題視されている犯罪や災害、環境問題などにも影響され、総合的なケアが必要である。これらをトータルに扱う学術分野がヒューマンサイエンスである。
ヒューマンサイエンスやライフサイエンスに関する研究は以前から行われているが、そのほとんどは「生物科学」分野、つまり細胞、遺伝子、生物学を中心とした領域におけるものである。これまでの「生物科学」分野のみならず、人間を中心とした医療面やストレス、癒しなどの感性、さらに障害者が自立するための生活支援面などを含めた広義で総合的なヒューマンサイエンスが望まれており、技術開発によって進化した各種センサを利用したセンシング技術の確立が必須である。また、当該領域におけるセンシング技術は、単に物理量を測定するだけではなく、人間の感性などを直接または間接的に測定する必要性がある。センシング技術とその評価手法が重要な要素である。センシング技術は、多面的な発展を続けており、高度に発達する情報技術や通信技術と結びつき重要な基盤技術としての役割を果たしつつある。
ライフサイエンス分野におけるセンシング技術は、生体を中心とした情報抽出や解析を目的として開発されてきた。とくに、DNAによる個人同定・解析、血液などの体液から悪性腫瘍や将来の悪性疾病を予測する技術開発などに関して研究開発が盛んに行われている。一方、精神面、心の動きなどを科学的に解明する研究も盛んに行われるようになり、高度な分析装置の開発や評価手法など新たな提案が行われている。しかしながら、精神面を含めた総合的な評価・解析については、個体差が大きく相関関係が必ずしもセンシング情報と一致するとは限らないなど、固有な問題点があり有効なセンシング手法も十分確立されていない状況である。
このような背景から、この分野におけるセンシング技術の重要性が増す傾向にある。つまり、センシング技術の発展は医療面、精神面単独のみならず、その融合した領域を解明する上でも非常に重要であり、信頼性の高い評価や解析が可能となって初めて有効に機能するものである。このようなテーマに関する書籍は現在のところほとんど見当たらない。
本書は、従来のヒューマンサイエンス分野に留まらず、広く人間に関するセンシング技術とその情報を人間生活と組み合わせることにより、安全・安心で快適な社会生活をおくることが可能となるよう、ヒューマンサイエンスとしての次世代センシング技術のあるべき方向をまとめたものである。内容としては、「健康」「医療」「福祉」について、「からだ」と「こころ」の側面からまとめている。「こころ」においては研究業績も少なく、まとめに苦慮したが、なるべく全体を網羅するように21人の専門家で執筆した。専門分野がさまざまであり不整合な点もあると思われるが、最新の内容をもとに執筆したものである。読者諸兄のご批判ご叱正をいただければ幸いである。(「まえがき」より)
【執筆者】大薮多可志(金沢星稜大学)/野田和俊(産業技術総合研究所)/長谷川有貴(埼玉大学)/沢田史子(金沢星稜大学)/勝部昭明(埼玉大学名誉教授)/原和裕(東京電機大学)/島田一志(金沢星稜大学)/山口昌樹(岩手大学)/小島洋一郎(苫小牧工業高等専門学校)/参沢匡将(富山大学)/伊藤善孝(アイスフエトコム株式会社)/南戸秀仁(金沢工業大学)/中川益生(岡山理科大学)/外山滋(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)/松倉晋(横河電機株式会社)/畑中啓作(岡山理科大学)/南保英孝(金沢大学)/三好扶(岩手大学)/畠直輝(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)/沖野浩二(富山大学)/神作憲司(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
目次
1章 ヒューマンサイエンスにかかわるセンシング技術
1.1 はじめに
1.2 ヒューマンサイエンスの動向
1.3 ヒューマンサイエンスの領域
1.4 センシング技術の応用
2章 健康とセンシング
2.1 はじめに
2.2 からだとセンシング
2.2.1 五感と感性
2.2.2 睡眠
2.2.3 アレルギー、シックハウス
2.2.4 スポーツにおける計測とセンサ
2.3 こころとセンシング
2.3.1 心身ストレス
2.3.2 癒し効果
2.3.3 人間活動とこころ
2.4 こころとからだのコントロール
2.4.1 西洋医学の限界と代替医学・医療
2.4.2 心身医療・医学の再構築
3章 医療とセンシング
3.1 はじめに
3.2 からだの診断と治療のためのセンシング
3.2.1 健康診断
3.2.2 血液と尿
3.2.3 細胞
3.2.4 呼気
3.2.5 脳
3.2.6 てんかん
3.2.7 感覚神経診断
3.3 こころの診断と治療のためのセンシング
3.3.1 過敏性腸症候群
3.3.2 不登校
4章 福祉とセンシング
4.1 はじめに
4.2 身体情報のセンシング
4.2.1 認知症
4.2.2 排泄
4.2.3 移動機器
4.2.4 パワーアシストシステム
4.2.5 コミュニケーション
4.2.6 脳のセンシング技術を用いた新しい福祉機器
4.3 人間環境のセンシング
4.3.1 ユニバーサルデザイン
4.3.2 スマートホーム
5章 展望と課題
5.1 健康分野
5.2 医療分野
5.3 福祉分野